080415朝日新聞:事件後、東京西部を転々 19歳不明女性、監禁容疑者

朝日新聞:事件後、東京西部を転々 19歳不明女性、監禁容疑者 魚拓
朝日新聞の記者は,この記事をそのような意図で書いたわけではないと思われます。
しかし,Nシステムの運用状況*1を明らかにする興味深い例です。重大事件の場合,このような警察リークがよくなされます。

東京都江戸川区の無職石田佳奈子さん(19)が行方不明になっている事件で、監禁容疑などで逮捕された青梅市の無職塩野直樹容疑者(26)が事件後、自宅に寄らず、同市など都内西部を転々としていたとみられることが警視庁の調べでわかった。同庁は15日も山梨県内の山中を捜索し石田さんの行方を捜している。/捜査1課などの調べでは、塩野容疑者は今月5日午後11時ごろ、東京都江東区のJR亀戸駅前で石田さんを自分のワンボックスカーに乗せ、埼玉県入間市などを経て、山梨県内に入った。/塩野容疑者は11日、青梅市中心部にある自宅から約3キロ離れた同市内の公園の駐車場で捜査員に発見され、石田さんを車内に監禁した容疑で逮捕された。同庁が5日から11日までの塩野容疑者の車の通行状況などを調べたところ、同市やその周辺などを移動していたことがわかった。この間、自宅には立ち寄っておらず、同庁は、車内やインターネットカフェなどで寝泊まりしていた可能性が高いとみている。/一方、塩野容疑者の車と並走するように、別の車が走行していたことが判明。同庁は事件との関連を調べている。/塩野容疑者が発見された公園の管理人によると、塩野容疑者のものとみられる車は11日午前9時半ごろ、駐車場に来た。見に行くと男が運転席で眠っている様子だったが、同11時ごろ男は車から降り、歩いて離れていった。その約30分後に捜査員が来て、車について尋ねたという。asahi.comより

Nシステムとは

 Nシステムそのものは犯罪の有無にかかわらず無差別に通行する自動車のナンバーを読み取るシステムです。したがって,Nシステムで写真を撮ること事態,捜査目的としては正当化することはできません。
Nシステムの問題点のいくつかあげてみましょう。一言で言うとプライバシーの侵害及び移動の自由の侵害ですが,突っ込むと次のとおりの指摘ができます。
1)無許可で個人の自動車のナンバーを記録する点です。
2)いつ,どこで,どのナンバーの自動車が通行したかが蓄積されるため,個人の移動の履歴を警察庁都道府県警で集約することが可能となる。これから個人の生活状況をある程度把握することが可能となり,単に無許可でナンバーを記録する以上の人権侵害性を持ちます。
 例をあげましょう。 スラッシュドットジャパン:Nシステムで収集した情報がWinnyで流出 ここでは,

"毎日新聞によると、Nシステム(自動車ナンバー自動読み取りシステム)で収集したと見られるデータが愛媛県警の捜査資料流出に伴って Winny に流出してる事が判明した。今回漏洩したのは 1999年の約10日間、約10万台分の情報で、Nシステムを利用して実際に特定車両の追跡を行ったと見られる情報も一緒に漏洩している。/Nシステムのデータは「アクセスする者を制限し、一定期間保存した後に消去される」とされており、今回どのような経緯で捜査員のPCにデータが保存されていたのか等に付いての情報は現時点で特に無いようだ。 "
とされています。当該記事は2006年3月のものですので,1999年の情報が流出しているという事は,長く見ると7年分はNシステムの情報が蓄積されていることになります。これらのデータがデータベース化されているのだとしたら,どんなことになるのでしょうか。警察庁がある特定人の追跡をしようとした場合,その者が自動車を利用している限り,相当程度移動範囲・パターンなどを特定することが可能になる,ということです。
 なお,ウィキペディアに記載されていましたが,
1999年9月、新潟県中越地方の某警察署課長(当時40)が女性警察官との交際を巡り辞職したが、新潟県警がこの課長の自家用車の動きをNシステムで追跡していた事が新潟日報のスクープで明らかになった。非番者の動向監視に用いられた事で悪用であるとの指摘がされている。Wikipedia日本版参照。2008・4・15現在
と言う風に,警察官個人が個人的に流用することも出来たそうです。アクセス者を制限しているとか,記録の保管期限が定められているとか言う点も,どこまで確実なものか分かりません。

今回の例の特徴について

さらに,今回興味深いのは,

一方、塩野容疑者の車と並走するように、別の車が走行していたことが判明。asahi.comより
併走している自動車まで分かるということです。つまり,”ある自動車の前後を走る自動車は何か”という条件でも検索が出来るシステムと推測できます。警察がこの事件を内定デモしていたわけでなければ,併走していた自動車の有無は分からないでしょう。併走していた車の種別が分かるのは,Nシステムの功績と見るべきです。

*1:Nシステムとは,自動車ナンバー自動読み取りシステムの事を言います。オービスと異なり,速度違反などのなんらかの犯罪事実の有無に関係なく,すべての通行車両のナンバーを撮影します。撮影後のデータがどのような形式で,いつまで保存されているかについては明らかにされていません。