100131 外国人地方参政権(部分)許容説は間違いと長尾先生が

外国人参政権をめぐる長尾教授インタビュー詳報「読みが浅かった」 :産経

10年1月28日のウェブ上の産経の記事です。鬼の首をとったかのようなテンションの産経新聞。しかし,論理の飛躍が多い。実際がどうかはともかく,これでは長尾先生が「喋らされている」ように見えてしまう。

外国人への地方参政権付与は合憲としてきた長尾一紘(かずひろ)・中央大教授が、従来の考えを改めて「違憲だ」と明言した。主なやりとりは次の通り。
なんだか読んでいると,いろんなところが痛々しいです。
 −−地方参政権を認める参政権の部分的許容説に対する今のスタンスは
「過去の許容説を変更して、現在は禁止説の立場を取っている。変える決心がついたのは昨年末だ」
−−部分的許容説を日本に紹介したきっかけは
「20年くらい前にドイツで購入した許容説の本を読み、純粋に法解釈論として合憲が成立すると思った。ただ、私は解釈上は許容説でも、政策的に導入には反対という立場だった」
−−許容説から禁止説へと主張を変えたのはいつか
民主党衆院選で大勝した昨年8月から。鳩山内閣になり、外国人地方参政権付与に妙な動きが出てきたのがきっかけだ。鳩山由紀夫首相の提唱する地域主権論と東アジア共同体論はコインの裏表であり、外国人地方参政権とパックだ。これを深刻に受けとめ、文献を読み直し、民主党が提出しようとしている法案は違憲だと考え直した」
−−考え直した理由は
「2つある。1つは状況の変化。参政権問題の大きな要因のひとつである、在日外国人をめぐる環境がここ10年で大きく変わった。韓国は在外選挙権法案を成立させ、在日韓国人の本国での選挙権を保証した。また、日本に住民登録したままで韓国に居住申告すれば、韓国での投票権が持てる国内居住申告制度も設けた。現実の経験的要素が法解釈に影響を与える『立法事実の原則』からすると、在日韓国人をめぐる状況を根拠とすることは不合理になり、これを続行することは誤りだと判断した」*下線部分はminoru-nによる。以下同じ。
地方参政権は住民自治の文脈から論じられてきたはずなので,韓国の在日韓国人の選挙権の保障は,理由付けとしては非常に弱いものでしょう。
−−もうひとつは
「理論的反省だ。法律の文献だけで問題を考えたのは失敗だった。政治思想史からすれば、近代国家、民主主義における国民とは国家を守っていく精神、愛国心を持つものだ。選挙で問題になるのは国家に対する忠誠としての愛国心だが、外国人にはこれがない。日本国憲法15条1項は参政権を国民固有の権利としており、この点でも違憲だ」
国民=愛国心を持つもの!!??帰化した人はどういう位置づけになるのだろう?忠誠心などという内心の有り様で参政権の保障の有無がかわるなどと,はじめて聞く議論です。ぼくがふべんきょうかのかしら?
−−ほかには
許容説の一番最先端を行っているドイツでさえ、許容説はあくまでも市町村と郡に限られる。国と州の選挙の参政権ドイツ国民でなければ与えられない。一方、鳩山首相地域主権論で国と地方を並列に置き、防衛と外交以外は地域に任せようとしている。最先端を行くドイツでさえ許していないことをやろうとするのは、非常に危険だ」
−−政府・民主党は、外国人地方参政権(選挙権)付与法案を成立させたい考えだが
「とんでもないことだ。憲法違反だ。国家の解体に向かうような最大限に危険な法律だ。これを制定しようというのは単なる違憲問題では済まない
−−付与の場合の影響は
実は在日韓国人より、中国人の方が問題だ。現在、中国は軍拡に走る世界で唯一の国。中国人が24日に市長選があった沖縄県名護市にわずか千人引っ越せば、(米軍普天間飛行場移設問題を焦点とした)選挙のキャスチングボートを握っていた。当落の票差はわずか1600票ほど。それだけで、日米安全保障条約を破棄にまで持っていく可能性もある。日本の安全保障をも脅かす状況になる」
ドイツ並に市町村と郡に限り保障するなら,何も部分的許容説が間違っていたことにはなりません。それとも,ドイツは長尾先生が仰る政治思想の文脈から外れているの?言っていることが滅茶苦茶です。また,名護市の件を引用して「日米安全保障条約を破棄にまで持っていく」というのは,言っていることが斜め上に飛躍しすぎです。一市町村が安全保障条約を破棄できるわけがないでしょう。現に,名護市長選においても,誰もそのような議論はしていません。

また,特定の民族・国民を指して問題視するあたりは,差別意識むき出しと言わざるを得ません。そもそも,名護市長選挙は,日本人だけの選挙で辺野古設置反対派が勝利したわけです。例としては不適切です。

さらに,「単なる違憲問題ではすまない」と仰るのですが,憲法違反の問題と,安全保障条約の問題では,長尾先生は,後者の方が重要であると考えるのでしょうか。非常に理論的には興味深いです(棒)。
−−学説の紹介が参政権付与に根拠を与えたことは
「慚愧(ざんき)に堪えない。私の読みが浅かった。10年間でこれほど国際情勢が変わるとは思っていなかった。2月に論文を発表し、許容説が違憲であり、いかに危険なものであるのか論じる」(小島優)
えーと,「10年間でこれほど国際情勢が・・・」というのは,どの変化を指して仰っておられるのでしょうか?10年前なら,2000年から2010年のことを指すわけですよ?まさか「中国がこれほど発展し,軍拡に走るとは予想しなかった」なんて眠たいことを仰るのではないですよね?