100119 貧困ビジネスと社会保障の貧困

ZAKZAK:恐るべき“貧困ビジネス”の世界 生活保護者はカネになる
ZAKZAKの記事です。ZAKZAKは,おねーちゃんの裸を記事にするだけではないです。

生活保護受給者向けの「無料低額宿泊所」を運営する団体が、総額約5億円もの所得隠しをしていたことが先週発覚した。しかし、これは氷山の一角。福祉を隠れ蓑に暴利をむさぼる業者はウジャウジャいる。なかには、「暴力団の資金源になっている例もある」という。“貧困ビジネス”の悪辣な実態とは−。
無料低額宿泊所とは,社会福祉法第2条第3項第8号にある「生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業」であり,第二種社会福祉事業を言います。
名古屋国税局は、任意団体「FIS」の藤野富美男経営者(45)=東京都文京区=と幹部2人を所得税法違反容疑で、名古屋地検に告発した。

藤野経営者らは、入所者に毎月支給される生活保護費約12万円のうち、1人あたり9万円を家賃や食費名目で徴収。必要経費を除いて得た利益を個人所得として申告していなかった疑い。FISは2002年の設立以来、名古屋市をはじめ、埼玉、千葉、神奈川などに21の宿泊所を運営。約2000人を入居させていた。入所者に施設の経理や事務も担当させており、06年に約10億円、07年には約20億円もの利益を上げていたという。
違法性を基礎づけるのが所得税法なのが悲しいところです。入所者に対する行為自体について違法性を問うていないのがなんとも残念です。
 生活保護費の「ピンハネ」をめぐっては、明確な法規制がないため、暴力団の資金源になっている例もある。「ヒットドラマ『任侠ヘルパー』よろしく、実際に構成員が管理者として働いていたケースもある」(警察関係者)という。
ピンハネの過程で詐欺的行為や脅迫があれば,詐欺や恐喝に問う可能性もあるのですが,立件は困難でしょう。よるべない人々が受給者になっているので,証言を得るのが難しいのです。事実上,立件は困難なのではないでしょうか。

なぜ無料低額宿泊所貧困ビジネスの温床になるの?

貧困問題に詳しい宇都宮健児弁護士は「公的な施設がないため、福祉事務所や病院がこうした悪質な宿泊所を安易に紹介するケースも多い。免許や資格がなくても開設でき、施設運営は管理者の裁量に委ねられている。ここまで放置し続けた行政の責任は重い」と指摘している。
宇都宮先生の指摘はその通りなのですが,若干補足します。

免許や資格などの規制をしていないことが問題なのではありません。公的な,入所施設や安価な住宅支援制度がないことが問題なのです。

居所がない人が社会復帰するのは大変

賃料滞納,住宅ローン支払い困難などで住居を失うことがありえるのは容易に想像がつくと思います。そして,一旦住居を失った人が社会復帰をするのは想像以上に大変です。

たとえば,いざ生活保護申請をして,転居費用を生活保護から出してもらおうとします。理論的には可能ですが,実際上は非常に難しいのです。公営住宅に関しては,地方税の滞納がないこと,保証人がいることなどが条件になることが多く,住居を失った人はこれらの要件を満たさないことが多いのです。民間住宅でも,審査に通らない,保証人を容易で畿内などの事情で,なかなか物件を見つけるのが困難になります。

よく,生活保護申請の水際作戦は不当だ!などと言われますが,福祉事務所の側も,居住場所のめどが立たない人に生活保護の支給決定をしても,今後のケースワークができず,支援を継続することが困難だという事情があります。ホームレスの申請は,受け付けづらいのです。本来は,福祉事務所が手厚い人材を備え,住居の確保にもフォローできれば理想的なのですが,現実はそうはなっていません。

そこで,短期的な居住場所を提供し,生活保護などの社会保障を利用しつつ,自立を支援する施設が必要になります。民間で有名かつ実績を出しているところでは,NPO法人ほっとポットがあるでしょう。しかし,ほっとポットのようにきちんとやっているところは多くなく,いわゆる貧困ビジネスとして行われている施設が多数あると思われます。本来であれば,ほっとポットのような施設は,公設の施設であればよさそうなものですが,残念ですが,そこまで進んだ自治体はそうありません。ここに,貧困ビジネスが漬け込む余地があるのです。要するに,公設の施設の貧困さが,土壌にあるのです。そこを解決せず,受給者や事業者を叩いても,何も解決しないでしょう。