091124 どこへ行く裁判員裁判

裁判員裁判:鳴門長男殺害・遺棄 「同情で片付けられない」被告に懲役12年 /徳島

裁判員裁判:鳴門長男殺害・遺棄 「同情で片付けられない」被告に懲役12年 /徳島

 ◇遺体切断厳しく非難−−裁判員ら会見

鳴門市の海岸で今年5月、大阪府八尾市山本町北1、無職、藤見一さん(33)の切断遺体が見つかった事件の裁判員裁判徳島地裁・畑山靖裁判長)。4日目の20日は判決公判が開かれ、殺人と死体損壊・遺棄の罪に問われた父親で同所、無職、藤見秀喜被告(62)に懲役12年(求刑・懲役15年)が言い渡された。判決後に裁判員らが記者会見。被告の妻も報道陣に思いを語り、事件を振り返った。【深尾昭寛、井上卓也、山本健太】

「主文、被告を懲役12年に処する」−−。判決言い渡しの際も、被告は軽くうつむいたままだった。

 判決は遺体を切断して海へ遺棄したことを重視し、「厳しく非難されなければならない」と指弾。畑山裁判長は被害者への謝罪がなかった被告の最終陳述についても触れ、「一さんに向けた言葉がなかったのは残念」と話した。

 判決文が読み上げられる間、一度も顔を上げなかった被告。傍聴席の妻紀代子さん(64)に目線を向けることもなく、法廷を後にした。

 判決後、裁判員らが記者会見。女性会社員(23)は、被告の印象を「自分のことを言葉にするのが苦手な人」と表現した。補充裁判員の男性会社員(42)も「目を一度も合わせなかった」と言う。精神障害者をめぐる支援制度についても「不十分と言えば不十分」と一定の理解は示されたが、「遺体を切断して捨てたことは、同情で片付けてはいけない」との意見を会見場で口々に語った。
◇「目線が違う」被告の妻、心情吐露

 弁護士会見に同席し、判決について「目線が違う。病院から外されて居場所のなかった人間の目線には立ってくれなかった」と心情を吐露した紀代子さん。証人として出廷した18日に受けた「暴力を振るわれたのはいつか」との質問に、「毎日続く暴力が想像つく人はいないのか?」とあぜんとしたという。

 裁判が終わった今、「生んだ責任を取れ。おれを殺してくれ。でないと、今に周りをえらいめに遭わす」と生前話していたという一さんに対し、「『大きな事件起こさなくてよかったね』と言いたい」。また、懲役12年の判決を受け入れる意向を弁護士に話したという被告に対しては、「長いですね。お父さんには謝りたい」と語った。
 ◇充実した評議−−畑山靖裁判長のコメント

 難しい事件であったにもかかわらず、裁判員及び補充裁判員は積極的に意見を述べられ、充実した評議を行うことができました。今後も、一件一件を大切に、よりよい裁判員裁判を目指したいと考えます。

 ◇適正な量刑−−織田武士・次席検事、橋口英明検事の話

 検察の立証が裁判員に受け入れられた。被告には最初から最後まで、被害者に対する謝罪の言葉がなかった。被告の同情すべき点を考慮した上での求刑で、決して重すぎたとは考えていない。判決も適正な範囲の量刑だ。
 ◇大変残念だ−−豊永寛二、野々木靖人・両弁護士の話

 大変残念。判決では長男に向けた言葉がなかったことが指摘されたが、被告は判決後、「子どもだから可愛いに決まっている」と話していた。被告や家族の苦しさや医療制度の不十分さが量刑にどうかかるのか、説得し切れなかった。

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 ■視点
 ◇精神医療制度の不備、垣間見る

県内2例目の裁判員裁判は情状面が争点となり、証人として精神科医の武井満氏(62)が出廷した。弁護側の「精神医療制度の不備が家族に負担をかけ過ぎている」との主張を明らかにすべく、精神疾患患者とその家族を巡る現状が語られた。

 被害者が罹患(りかん)していた統合失調症について、裁判員は症状や治療法などを理解しようと積極的に尋ねた。地検も「必要な知識ならこちらも説明すべきだった」と振り返る。「そもそも統合失調症とは?」。事件を理解する前提の知識が不足していたことは、傍聴席からも同様に感じた。

 武井氏は審理後の取材に「あの時間で実態すべてが伝わるとは期待しない」と語り、問題の根深さをうかがわせた。裁判員も会見で実情を「知ったというだけで、理解しきれなかった」と口にする。

 被告の行為は処罰されて当然だ。しかし判決は「被告同様に苦しみながら、現実に向き合っている人々がいる」と指摘し、精神疾患患者とその家族が制度不備に苦しむ社会問題をあぶり出した。一つの裁判は終わったが、そこに垣間見えた問題は終わらない。【井上卓也
裁判員が誰一人障害者をとりまく環境や,その生活について想像できなければ,どうなるか。
さらにいうなら,行為類型ごとに刑罰の重さを定め,だからこその恣意的な刑罰を抑えた刑法を飛び越えるようなことがあるばあいどうなるか。


同期の裁判官は,「これまでは行為責任に偏りすぎていた」と言ったが,では,何に対して責任を問うのか。
いままで精査されてこなかった責任の重さや,量刑相場・量刑基準と言ったものが,恣意的なものに流れていってしまうことを強く危惧します。