091105 裁判員裁判/調書回帰の傾向が

河北新報:仙台・裁判員裁判 3者の思惑交錯 着席位置などに工夫:魚拓

◎「調書回帰」の傾向鮮明 理想と現実揺れる裁判官
仙台地裁で4日始まった殺人事件の裁判員裁判で、検察側は証拠提出する被告の供述調書を3通にとどめた。このうち、犯行状況など事件の核心(罪体)に関する調書は1通のみ。それでも、公判初日の弁護側の被告人質問は情状に関する質問が大半を占め、検察側が反問する5日の被告人質問も30分程度の予定。罪体の証拠調べは実質的に調書の朗読で終了した形で、既に実施された裁判員裁判でも見られた「調書回帰」の傾向が一段と鮮明になった。

 調書などの書証は全文朗読が原則の裁判員裁判で、特に供述調書は過不足なく簡潔にまとめ、立証に不要な部分を削って抄本化するよう求められている。検察側が今回提出した調書も、その要請に応えた分かりやすい内容ではあった。

 裁判員裁判に関し、最高裁は被告が起訴内容を認めた自白事件では、調書の証拠採用に弁護側が同意することを前提に「いかに調書の取り調べを合理的に行うかという問題に集約される」と、調書の活用を容認する考えを示している。

 半面、裁判員裁判は「調書裁判」との批判もあった書面審理主義からの脱却を念頭に置き、法廷で語られた内容から判断する刑事裁判の原則、直接・口頭主義の徹底も理念の一つだ。相反する主義の両立という難題を抱えた裁判官の訴訟指揮は「理想と現実」のはざまで揺れ、一様ではない。

 8月に全国初の裁判員裁判として注目された東京地裁は供述調書をほぼ証拠採用せず、被告人質問中心の審理を実施。10月にあった福島地裁の裁判では裁判官が調書の採否を留保して被告人質問を実施後、検察側に証拠請求を撤回させた。

 一方、9月に東北初の裁判員裁判を行った青森地裁は調書主体の証拠調べを展開し、質問は補足的だった。10月に福島地裁郡山支部と秋田地裁であった2件の裁判員裁判も調書と質問を併用。質問優先、調書不採用の運用は、今回とは別の仙台地裁の刑事合議体でも見られるが、調書の積極活用が一般化しつつある。

 防御が主目的の被告人質問は従来、弁護側からの実施が通例だが、裁判員裁判の公判前整理手続きでは最近、立証責任の観点から、調書を補足する検察側の被告人質問を先行させたい裁判所や検察側の意向に弁護側が反発する事態も発生。調書と質問の両立という難題が、新たな難題を呼ぶ格好となっている。(報道部・若林雅人)
この記事だけではありません。
ボ2ネタ:裁判員裁判 検察側が圧倒する公判運営by五十嵐二葉弁護士@朝日
「郡山では証人を傍聴席に置いたまま,検察官が当人の調書を全文朗読した。「調書」で検察側から見た事件像をまず裁判員に刷り込む。外国の法曹関係者に知られたらあきれられるだろう。

裁判員裁判は「調書朗読裁判」であり,従来以上に検察側の見方が裁判員の心証を圧倒した。」
ボ2ネタからの孫引きですが。

もともと,裁判員裁判に際しては,調書裁判主義からの脱却を図るべく,証拠の簡素化,直接主義,口頭主義を徹底する方向で模擬裁判が実施されてきました。しかし,もはや形骸化しつつあるようです。保釈の運用も改善されないまま,集中審理(拙速審理)*1のみが実現化されたということでしょうか?

*1:そういえば,大阪方面であった,「公判前整理をして審理を早くしようとしたら,逆に長期化下でござるの巻き」@募金詐欺事件は,どうなったのでしょうか??