080217司法改革・弁護士増員(朝日新聞)弁護士増員—抵抗するのは身勝手だ

朝日新聞:弁護士増員—抵抗するのは身勝手だ 魚拓
毎日新聞と東京新聞が大ブレイクしてくれたと思っていたら、いよいよ真打ちの朝日新聞がやってくれました。

生活や仕事で困ったことが起きたら、どこに住んでいても弁護士に相談することができる。このように司法を市民に身近な存在につくりかえるのが、今世紀に入ってようやく始まった司法改革だ。
市民のための司法改革という錦の御旗をたてています。しかし、どのような司法改革が本当にも止められているか、という観点が、やはりこの社説には欠けています。以前の僕のエントリで指摘したとおり、この点は多くの弁護士に批判されています。
その具体策として、弁護士を中心に法曹人口を倍増させ、18年ごろに5万人にする。この政府の方針の下、法科大学院がつくられ、新司法試験が始まった。かつて500人だった司法試験の合格者は次第に増え、昨年は2100人になった。これを再来年までに3000人にするのが政府の計画だ。
ダウト。ロースクールが現実化した時には、すでに合格者は800人を迎え、1000人に達しようとしていました。”かつて500人だった”は、誤導です。
ところが、ここにきて計画に抵抗する動きが出てきた。/一部の弁護士会が「質が低下する」「新人弁護士の就職難が起きている」という理由で、増員に反対し始めた。今月上旬にあった日本弁護士連合会の会長選挙で当選した宮崎誠氏は、政府に増員計画の見直しを求めると表明した。/司法試験を管轄する法務省でも、鳩山法相が「3000人は多すぎる」と発言し、見直しを検討することになった。/確かに、司法試験に通っても司法研修所の卒業試験に合格できない人は増えている。しかし、これは司法試験の合格者が増えた分、研修所で不適格な人を改めてふるい落としているともいえる。そもそも、どのくらいの質が弁護士に求められるかは時代によっても違うだろう。/弁護士が就職難というのも、額面通りには受け取れない。弁護士白書によると、弁護士の年間所得は平均1600万円らしい。弁護士が増えれば、割のいい仕事にあぶれる人が出る。だから、競争相手を増やしたくないというのだろうが、それは身勝手というほかない。
勤務医の平均所得とあまりかわりませんが、この論法からすると、医師やその他士業にも同じ論法で同じ批判を加えるべきです。ちなみに、一般に開業医の方が勤務医よりも所得水準が高いといわれいています。弁護士は、世間より思われているほど所得水準が高いとは言えないと思いますが。ちなみに、ワーキングプア弁護士はどうなるのでしょうか。
第一、弁護士過疎の問題は解消したのか。一つの裁判所が管轄する地域には、少なくとも2人の弁護士が必要だ。原告と被告、それぞれに弁護士が付かねばならないからだ。ところが、全国に203ある地裁支部の管轄地域で、弁護士が1人もいない地域が3カ所、1人しかいない地域が21カ所も残っている。/全国各地で法律の相談に乗る日本司法支援センター(法テラス)が一昨年発足した。だが、必要とする弁護士300人に対し、集まったのは3分の1だ。
その法テラスに新規採用された弁護士の所得水準がどうか、というのは以前のエントリに触れました。ロースクールや研修所の費用を考えるとそれでペイするかどうかまで突っ込んでください。
来春には裁判員制度が始まる。集中審理のため、連日開廷となる。弁護士が足りなくなるのは目に見えている。/さらに、起訴前の容疑者に国選弁護人をつける事件が来年から広がる。
被疑者国選弁護人の問題もまさに地域格差の問題なのです。地方で足りない弁護士をどうするのかという問題です。
被害者の刑事裁判への参加が年内に始まり、法廷で付き添う弁護士も必要になる。/弁護士をあまり増やすな、というのなら、こうした問題を解決してからにしてもらいたい。並はずれた高収入は望めなくとも、弁護士のやるべき仕事は全国津々浦々にたくさんあるのだ。かつて日弁連は司法改革の先頭に立った。その改革は市民のためであり、法律家の既得権を守るためではなかったはずだ。その原点を忘れてもらっては困る。
その原点と言うのがどういうものか、説得的に論証していただきたい。弁護士が増えたからといって、朝日新聞が想定するような、”か弱い一般消費者で労働者である市民”の味方をする弁護士が増えるとは限らないのです。悪徳業者や、リストラを乱発する使用者、セクハラパワハラをする使用者側に弁護士がつくことがあるということを忘れてはいけません。単に増員をすれば、弱い市民が助かるという幻想を仮にお持ちであるのなら、直ちに見直していただきたい。
【追記】水口先生がより丁寧な批判を加えておいででした(夜明け前の独り言:2/17朝日新聞社説:弁護士増員 抵抗するのは身勝手だ)
まったく仰る通りです。
”それでもなんでも弁護士は飢えてもいいから、とにかく弱者を救済しろ”という主張を朝日新聞以下大手新聞社が維持するのであれば、まあ仕方ないですが。そのときには司法試験は有能な若者にとって魅力のないものになるのでしょうね。

さらに、ろーやーずくらぶでも批判されていました。
ろーやーずくらぶ:3000人見直しを揶揄する朝日の「身勝手」さ
こちらも仰るとおりかと。朝日さまお得意の格差解消はどこかへ吹き飛んだかのような議論です。法テラスの新規採用弁護士の労働条件と生活の不安定さをみても、朝日さまはおなじような主張を繰り返せるんですかね。しかも、国による司法サービス切り捨ての過去の経緯には触れないというご都合主義。まさに”身勝手さ”です。