080214誰のための司法改革でしょうか。

二つのブログで興味深い記事を見つけました

さんけんブログ:「司法改革」は市民のためのものなんかじゃない

ろーやーずくらぶ:余裕があるからするのでは人権活動と呼ぶには値しない

 最近,日弁連の会長選挙がありました。その際,当選した宮崎候補は法曹人口増加のスピードダウンを掲げ,対立候補の高山候補は,司法試験合格者を年間1,500人にすべきとい主張しました。法曹人口が大きな争点のひとつになったのです。しかも,色の濃さの違いこそあれ,いずれも今の司法改革の基礎となっている、司法制度改革審議会の意見書に対して,大なり小なり異議を唱えるスタンスを取っています。

 これに対して,新聞各紙は批判的なスタンスを取りました。問題は,規制緩和万能原理主義日本経済新聞だけではありません。東京新聞毎日新聞まで批判的なスタンスを取ったことです。
東京新聞:日弁連新会長 改革後退は許されない魚拓
毎日新聞:社説:弁護士会 司法改革を後退させぬように魚拓

新自由主義者も裸足で逃げ出す強烈な記事です。記事を書いた人間には学習能力とか想像力が欠如しているとしか思えません。ある意味反省した山口二郎教授の方が数段マシと言えます。過去の経験から判断することができますから。

 東京新聞の書き方はかなり苛烈です。

日本弁護士連合会の新会長を決める選挙では、「安定した生活をしたい」という多くの弁護士の本音が噴出したようだ。…(略)…裁判員制度の実施が来春に迫る中で、裁判所、法務省と共同歩調だった日弁連の方針変更は重大だ。弁護士が身近になることを期待する国民に対する背信といえよう。…(略)…過剰論は、要するに都会で恵まれた生活ができる仕事が減った、ということではないだろうか。司法書士などの試験と同じく司法試験も法曹資格を得る試験にすぎず“生活保障試験”なぞではない。…「生存競争が激化し、人権擁護に目が届かなくなる」−こんな声も聞こえるが、余裕があるからするのでは人権活動と呼ぶには値しない。…(略)… 「法の支配」が確立するには、弁護士が高みにいて出番を待つのではなく、社会の各場面に自ら出向かねばならない。弁護士増員は司法改革の要であり、職域拡大は自らの努力と才覚にもかかっていることを忘れないでほしい。…(略)…、四月に正式発足する日弁連の新執行部が増員に急ブレーキをかけるなら、弁護士会の信頼は失墜し、司法改革が頓挫しかねない。それは国民にとって不幸であり、避けなければならない。
この記事からは非常に肝心な事柄がすっぽり抜け落ちている。それは、”何が国民のための司法改革か”です。司法改革の目玉の裁判員制度は、いまだに国民の理解を得ているとは言い難い。おかげで法曹三者が必死になって広報をしています。しかし、そのことは、そもそも”司法改革”と言われるものが、国民のためのものか疑義をもたらすものであると理解できないでしょうか。
 国民にとって必要なのは、どのような司法システムでしょうか。もとめられているのはどのような分野での司法的解決でしょうか。需要の質と量の分析なしに、まず年間3000人ありきで決まった法曹要請人口は、本当に国民の必要性にそったものなのか、この観点が完全に抜け落ちています。これでは、”道路需要があるから”と過去の需要予測を元に道路建設をゴリ押しする某国土交通相より劣悪です。国土交通相は過去の需要データをもとにしているだけまだマシだからです。

 法曹人口が増えることは、場合によっては国民の不幸になるからです。裁判実務を行うことができる法曹というのは怖いものです。やろうと思えば、不必要に事件をおおきくしたて上げたり、事件を起こしたりすることも不可能ではないからです。仮に金儲けのためだけに裁判をクライアントに勧めたり、大きな事件にする必要がないものを過剰に大きな事件に仕立てたりする危険がないとは言えないでしょうか。もし、弁護士が生活に食い詰めた結果、そのような事が起こるのであれば、それは国民にとって不幸な事です。

 毎日新聞もこんな調子です。

裁判所の敷居を低くし、司法による紛争解決の道を広げるには、法曹人口の大幅な増員は不可欠だ。
そのくせ、権力側への指摘はあまりに不十分です。
裁判所や検察庁の増員は遅々としており、増加した法曹資格者の育成を弁護士会が一手に引き受ける格好になっているからだ。
裁判所の支部を減らしたり縮小したりされたこれまでの経緯をこの記事を書いた論説委員は考えないのでしょうか。一言で”新人弁護士は都会ではなく地方にいけば就職口がある”と言いますが、閉鎖的な地方の支部の事件の持つ固有の困難さを、この論説委員は考えたことがあるのでしょうか。ともすると、事件屋・示談屋・暴力団構成員や暴力団周辺者が周囲をうろつく弁護士という仕事は、いきなりなんのバックアップもなしに地方でできるものではありません。
 さらに、これら毎日・東京新聞の如き論者は、”法テラスがあるではないか。法テラスに就職したらどうだ”と言います。しかし、私が耳にした範囲では、法テラスのスタッフ弁護士として採用された新人弁護士の給与が月額18万円だそうです(ただし裏付けは取っていません。身近にいないもので…)。今述べた業務の特殊性や危険性、ロースクールの学費等を考え、毎日新聞論説委員東京新聞論説委員は、この給与が妥当だと言うのでしょうか。

 勤務医の過酷な勤務や訴訟リスクなど様々な負担が医療崩壊を引き起こしました。毎日新聞東京新聞の如き無邪気な学級委員レベルの善意が、「司法崩壊」を引き起こさないことを祈るばかりです。

【追記】ほかにも興味深いブログがあったのでリンクを張ります。
弁護士のため息:日経新聞の企業内弁護士は国選弁護をやっているのだろうか?
PINE's page:アンタたちに言われたくない。
黒猫のつぶやき:弁護士はロボットではありません。
超初級革命講座:「「弁護士は多すぎ」は本当か」などと述べる日経の愚かな社説