080207連日開廷で裁判の迅速化!?鍵は弁護人の協力!?

読売新聞:初公判から判決まで「連日開廷」…東京地裁、4月から
裁判員制度に関連する読売新聞の記事です。

来年スタートする裁判員制度を前に、東京地裁は今年4月以降、殺人など対象となる全事件について、初公判から判決までを原則数日間で終わらせる「連日開廷」とする方針を固めた。/国民が参加する裁判員裁判の約9割は連日開廷で5日以内に終えると想定されているが、同地裁は、プロの裁判官による現行刑事裁判でこれを前倒しすることで、制度の順調な滑り出しを図りたい考えだ。/来月上旬、東京地検と東京の3弁護士会との協議会で正式提案し、協力を求める。
読売新聞は無前提に数字を出していますが、ちょっと数字の出し方がおかしいのではないかと思われます。裁判の長さをとらえるならば、公判前整理手続がなされる事件の場合、
起訴→公判前整理手続→初公判→判決
という経過をたどります(期日間整理などをはしょっているのでこれも乱暴ですが)。読売新聞は、裁判の長さを
初公判→判決
と表現しています。ここで着目されているのは、裁判員が関わる公判の部分のみです。読売新聞のスタンスがよく分かります。公判前整理手続きの長さは無視しているのです。裁判員が関わる公判の部分が短くすめば良い、というスタンスです。
裁判員裁判の対象となるのは殺人や傷害致死などの重大事件で、最高裁によると、2006年には全国で3111件、東京地裁では388件。初公判から判決までの平均審理期間は6か月だが、被告が否認している事件では1年以上かかるケースも少なくない。これを3〜5日で終えるため、同地裁はまず、初公判前に検察、弁護側の主張を整理して争点を絞り込む「公判前整理手続き」を全対象事件に適用する。06年にこの手続きがとられた対象事件の平均審理期間は1・3か月に短縮された。
この読売新聞の書き方はかなり乱暴でしょう。何も考えずに読むと、”公判前整理手続きの対象となった事件は、これまでなら平均6ヶ月かかったものが、1.3ヶ月に短縮されたのだなあ”という印象を読み手に与えます。私は手元にデータを持ち合わせていないので、この点について正確な指摘ができないのが残念ですが、公判前整理を行った場合と行わない場合の平均審理期間について、起訴から判決までを対象として比較すべきでしょう。読売新聞がそのような観点で数字の比較をしているのか、少なくとも記事からは明かになりません。かつて、公判前整理手続だけで1年を越えた事件があったと(ソースもと失念)いう報道がありました。公判前整理も含めて1.3ヶ月まで短縮された、というのは、個人的には少し信じ難いです。

さらに、後の方もかなり問題があります。

さらに、証拠や証人の数を減らしたり、証人尋問などを効率的に行ったりすることで、連日開廷を実現させたいとしている。/同地裁の方針について、ある検察幹部は「全く異論はない」と、前向きの姿勢を示す。カギを握るのは弁護士側の協力だ。組織的な対応ができる検察と違い、各事件を個々に担当する弁護士にとって、連日開廷となれば、その間、他の弁護士活動が全くできなくなるなど大きな負担がかかる。/このため、国選弁護人を複数つけたり、公判前整理手続きの進め方や開廷時期などで弁護士側に配慮したりするなど、負担軽減が図られることになりそうだ。/同地裁の刑事裁判官は「裁判員制度が始まれば連日開廷は避けて通れない。本来、審理計画は個々の裁判官の判断に任されるが、制度がスムーズに開始できるよう、すべての刑事裁判部が連日開廷を目指すことで一致した」としている。
かりに迅速な裁判を目指すのなら、検察はベストエビデンスをめざし、証拠を相当絞り込む必要があります。立証趣旨のよく分からないものを羅列する検察官がままいますが、そういうものを勇気をもって落とし、必要最小限の証拠をもって証拠調べに挑むことが肝要です。天下の読売新聞様が問題としない、公判前整理手続の段階での検察官側の強力が不可欠です。また、証拠隠しも当然いけません。
一番重要なのは保釈です。連日開廷を目指すのであれば、被告人と弁護人が十分に打ち合わせのできる環境を整える必要があります。したがって、連日開廷を目指すのであれば、原則保釈を認めるという法の建前を裁判所が貫徹する必要があります。この点も、天下の読売新聞様はご指摘になられないようです。弁護人が努力すれば、勾留中の被告人との打ち合わせもどうにかなるとお考えなのでしょうか。

最後に。裁判の迅速化はもちろん重要です。しかし、もっとも重要なのは当事者の攻防が尽くされ、その中から真実が発見されることであり、迅速化はその上でなされるものです。迅速と拙速は別の次元の問題です。実際に起訴されながら無実を訴える人々には、それぞれの方の深刻な事情があり、なかなか本当の事を言いづらかったり、言えなかったりすることがよくあります。拙速化を重んじ、無辜の人々が処罰されるということがないよう願います。その意味で、弁護人の責任はとても重いものがあります。天下の読売新聞様には、弁護人が国選事件で十分な否認事件の活動ができるためには、どのような環境や制度設計が必要か、という観点で是非記事を書いてほしいものです。