090913 産経新聞さんは高利貸しがお好き!?

【経済深層】ヤミ化する金融業者、“融資難民”も続出 改正貸金業法の衝撃-MSN産経ニュース:
産経新聞の記事です。相変わらず,改正貸金業法には批判的であり,高利の貸金業の合法化を説く論調です。
直近では,こんな記事も書いています。
脅さず年利80%…「ソフトヤミ金」暗躍 市民や零細業者、不況で頼る


一方,小学館から出ているSAPIOも,同様に闇金融の跳梁跋扈を記事にしています。

[金融]カネを返せなければ「臓器売買」か「マグロ船」!? まるで漫画のような闇金が本当に大繁盛中/小泉深
保守系の新聞・雑誌が相次いで闇金融の跳梁跋扈を記事とするのは偶然とは思えません。貸金業者の意向を受けた記事とみてほぼ間違いないでしょう。

これらの論調の柱としては,
(1)そもそも金利は市場の自由な判断に委ねられるべきで,国家が規制するべきではない。
(2)貧困層が審査を通らず,かれらの資金需要を満足することができない。かわいそうだ。結果として,闇金融がはびこることになる。
という二点が挙げられます。

しかし,いずれも根拠が薄弱です。

金利は市場の自由な判断に委ねられれば,適正な金利に落ち着くのか?

結論からして,自由競争が金利の低下を招くことはないと言えるでしょう。
生活困窮者に対する金融業が,高金利を招くことは,歴史の経験から明らかです。

2007年11月7日東京弁護士会 高金利撤廃を求める意見書

韓国にも、以前は日本と同じように、貸付金利を制限する利子制限法(年25%程度)が存在していた。

しかし、1997年のアジア諸国通貨危機は韓国にまで達し、その結果韓国は、IMFから融資を受け、その管理体制下に入った。そして、IMFは韓国に対し、急激な自由化、民営化を求め、その一貫として、利子制限法が撤廃され、金利が自由化された。

その結果、年利数百%もの超高利金融業者が横行し、信用不良者(多重債務者)が激増して政府の公式見解でも370万人を超え、
経済的理由による自殺率は世界一と推計され、夜逃げ、犯罪が多発するなど大きな社会問題となった。

 そのため、2002年10月に、急遽、貸付業法が制定され、金利規制が一部復活されたが、金利の上限金利は年66%と高利であり、しかも3,000万ウオン(日本円で約300万円)以下の貸付金にしか適用されないという不十分さが指摘されている。

また,ポリー・トインビー氏の「ハードワーク」という著書には,イギリスでの貧困層生活体験がつづられています。その中では,生活困窮者が就職や生活に必要な資金として,高利貸しから借入をせざるを得ず,結果,借金から抜け出せなくなる心理が描かれています。

ハードワーク~低賃金で働くということ

ハードワーク~低賃金で働くということ

生活や就職のためにどうしても必要なお金があるとき,およそ返済が出来ない高金利でも,借りなければ明日の生活が出来ない以上,借入に走ってしまうのです。その判断はごく刹那的なもので,理性的な損得勘定に裏付けられたものではありません。貧困層であればあるほど,返済が困難な高金利貸金業者に走りやすく,かつ,そこから抜け出せなくなるのです。貧困が存在する限り,金利の自由化は高金利業者の跋扈を生み,構造的な搾取を可能とします。

自由競争の結果,金利が下がるという事態にはなりえません。日本でも,大手消費者金融業者の約定利息が,ここ数年間25〜29.2%で固定されていたことを踏まえると,金利に競争原理が働きにくいのは理解していただけると思います。もし,競争原理が働くのなら,より低金利で貸付をする大手消費者金融業者が出てきてもおかしくないでしょう。

貧困層の資金需要をどうやって満たすのか

消費者金融から借入をする理由は,次のとおりです。
消費者ローン利用者・利用経験者の借入に関する意識調査 2007年11月6日|ニュースリリース|NTTデータ経営研究所:

株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:佐々木崇)は、NTTレゾナント株式会社の提供するインターネット・アンケートサービス「gooリサーチ」の協力を得て、消費者ローン(カードローン・キャッシング等)の利用者・利用経験者を対象に、借入の状況、借入目的、借入の順序等、消費者ローン利用者の借入に対する考え方やニーズおよび2006年12月に公布された「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」の影響を把握するため、「お金の借入に関する調査」を実施しました。
【主な調査結果】
1. 消費者ローンの利用目的は 「日常の生活費」 の補填
ローンの利用目的は3業態(銀行・信用金庫などの金融機関、消費者金融会社、クレジットカード会社・信販会社)とも、「日常の生活費」の補填が最も高く(39%〜56%)、カードローンやキャッシングが、明確な資金使途を伴わない、日々の資金繰りのバックアップとして利用されていることが分かる。また、「他のカードローンの返済」のために借入を行っている割合も22%〜29%と高く、いわゆる「多重債務」状態に陥っている利用者が相当程度存在することが推察される。
最初は少額な日常生活費の補填,やがて,返済のために借入をするようになる,これが,高金利業者から借入を繰り返す人のモデルです。
借入額と返済額のほとんどが金利に当てられます。
彼ら(債務者)の賃金は,貸金業者金利にあてられることになります。
結果,債務者は多重債務から抜け出せません。貸金業者は,債務者が多重債務状態に陥り,完済せず,延々と利息のみを払う状態に陥るようコントロールします。破綻させず,完済させず,支払を継続させることがポイントです。なぜなら,そうでなければ金利収入が途絶え,利益を得られないからです。

しかし,こういった高利貸金業者のビジネスモデルは,債務者を多重債務地獄に突き落とすことでしか成り立ちません。

一時的な資金需要を満たしたとしても,債務者・借入申込者が抱えた問題の解決にはなんらならないのです。債務者・借入申込者の資金需要,という問題の解決は,中小零細業者に対する資金供給をどうするか,貧困層の生活苦をどうするか,という問題に答える必要があります。金融庁の多重債務者救済対策会議でもすでに認識済みです。これらの問題は,配布資料にすでに書いてあるからです。

産経新聞は,これらの問題を華麗にスルーしています。分かっていてスルーするのは卑怯です。わかっていなければ取材不足の謗りを免れないでしょう。

金利規制は生活救済や零細業者救済政策とワンセットで

さまざまな社会福祉上の制度が機能しない結果,多重債務者問題は生じました。また,地域金融機関が本来の役割(中小零細業者の資金需要に応じること)を満たせば,商工ローンの跋扈はありえなかったでしょう。これらの問題を政府は認識しながら,いまだに有効な手立てを打ち出せないでいます。

少なくとも,産経新聞は,ここまで書いた上で,改正貸金業法闇金融に触れるべきでしょう。