090810 ”宇宙飛行士の向井さんや毛利さんだって覚せい剤をしているよ”って・・・

あるブログのエントリ

宇宙飛行士の向井さんや毛利さんだって覚醒剤をやっている。 - マウスパッドの上の戦争。

”ダメ,ゼッタイ”キャンペーンを取り上げ,薬物の危険性を過度に言い募り,きちんとした教育をしないことの危険性を説くエントリです。

つまり、厚生労働省の「ダメ、ゼッタイ」政策という愚民育成政策と、たいした被害者もいない薬物汚染を徹底的に槍玉に挙げ、どうでもいい脅威や悪が蔓延っているかのように見せかける手口。そして、それを後援する正義の組織「麻薬・覚醒剤乱用防止センター」に膨大な予算が公営ギャンブルから補助事業費として支出され、天下りやら名目だけのポストになっているという事実がいつまでたっても報道されないということだ。
天下りや外郭団体が予算を費消するというアプローチから切り込みつつ,一般的に違法薬物として流通する覚せい剤にごく近い物質が宇宙飛行士などに処方される例を挙げます。
そもそもダメ、ゼッタイとか言いながら覚醒剤は今でも風邪薬や喘息の薬としてそこら辺で売られている。
 そして、宇宙飛行士の多くはNASAから宇宙酔いのための薬として、違法薬物そのものであるアンフェタミンが処方されている。
そして本論。”ダメ,ゼッタイ"キャンペーンを愚民化政策として批判して,きちんとした教育の必要性を説きます。
僕が言いたいのは国家だろうが個人だろうが、ちゃんと薬のリスクを考えて使わなければ誰だってオーバードーズして即死したり幻覚や幻聴に悩まされるだろうという単純な事実だ。
人命を守るためのダメゼッタイなら、基礎知識に抗不安剤を使った応急措置や、適正量と致死量を明示して教育すべきだ。欧米じゃやってるじゃないか。・・・(略)・・・税関でエクスタシーが何千錠、何万錠も押収され、大麻覚醒剤が何キロも没収されているのだ。それは流通している量のほんの一部で、ほとんど膨大な量は、大して問題にもならず消費されている。そして時折、持ち物検査や、ODや急な乱用でおかしくなったヤツが捕まって明らかになるだけだ。ほとんどは特に問題もなくクソやションベンになって流れていく。これが現実だ。だとすれば、普通に、特に問題も無く使用できてしまった人々は「ダメゼッタイ」というスローガンを馬鹿にするだろう。なーんだ、ウソじゃん。死なないじゃん。と。そしてますますハマり、時にヤバいことになる。

覚せい剤濫用者を何度も見てきた立場として

上記エントリにはそれなりの説得力があります。僕も,もし,何人もの濫用者を実際に見るような経験を持っていなければ賛成したでしょう。

しかし,覚せい剤の自己使用の前科前歴を積み重ね,もはや人生の半分を刑事施設で暮らすような人を何度も見てきた身としては,上記エントリのあまりに牧歌的なノリにはついていけません*1

20歳で自己使用で捕まり,必死で兄弟を探して情状証人として連れてきた男の子の件。接見室で大泣きして薬物と縁を切ると言った彼は,半年後に再び手を染めた。

一人娘に見捨てられそうになりながら薬物と縁を切れなかったあなた。娘が面会に来ないことで大泣きしたけれど,だったらなぜ薬物と手を切らなかったのだろう。

家族から”絶対に手紙を送らないでくれ”という手紙を貰った(!)被告人もいる。みな,そうなりたくてなったわけではないのだ。

覚せい剤濫用者

いまの日本の違法薬物の刑事事件は,圧倒的多数を覚せい剤の自己使用が占めます。

覚せい剤濫用者は,面白いように覚せい剤から抜けることが出来ません。わずかに残された肉親に見捨てられようが,明日の食事に困ろうが,薬物を提供する人間が自分に対して暴力を振るう人間だろうが,薬物の魅力から逃れることができないのです。

アルコールも相当強力なドラッグではないかと思っていますが,それでも覚せい剤の凄まじさには勝てません。

量や数値として計上できないのが悔しいのですが,極限状態になっても,何度刑務所に入れられても,抜けられない人間があまりに多いのです。

問題はその依存性です。

上記エントリは,

ちゃんと薬のリスクを考えて使わなければ誰だってオーバードーズして即死したり幻覚や幻聴に悩まされるだろうという単純な事実だ。
として,薬物の危険性は覚せい剤などの違法薬物に限られないかのような書き方をしています。

確かに,精神科のある種の薬など,病院で処方される薬には怖いものもたくさんあります。しかし,覚せい剤ほどの強烈な依存性があるものを僕は知らない*2。その依存性ゆえに,薬物を入手したいがために,周りの人間関係を壊し,犯罪を犯す人間がいます。冷たい方をするなら,OD*3で死にたい人は自分で死ねばいい,と僕なんかは思います。でも,依存した結果,周りの家族や,社会を巻き込んで破滅する人間は,本当に見ていられない。

しかも,よくわからないのが,覚せい剤を相当期間濫用している人間の人格が,どうも壊れているのではないか,という印象を持つことです。
薬物の影響なのか,もともと本人がそういう人間だからなのかは分からないのですが,「自分のことしか考えられない」「家族があなたのことを心配している,と言っても理解できない」「そのくせ見捨てられることを強く不安がる」「ちょっとの刺激に過敏に反応する」などの傾向を示し,その結果,会話がまったくかみ合いません。これが依存症の結果なのか,依存性薬物が引き起こす精神病なのか,僕には分かりません。しかし,こういう恐ろしさは,上記エントリにはまったく感じられませんでした。”著名人も使っているヨ(はぁと)”なんて,口が裂けても言えません。

正確な薬物教育の必要性,というだけならまだわかります。

しかし,覚せい剤の恐ろしさを他の一般に病院で多く処方される薬と同程度まで相対化し,著名人を引き合いにして身近に感じさせる必要性が,僕にはまったく理解できません。

追記

本当だとしたら恐ろしい。

正直に書きますが、2回以上刑務所に入った覚せい剤中毒の患者さんは、たとえ医療機関につなげたとしても治りません。理由としては、覚せい剤とシンナーには人格退行という性格変化が起こるからです。簡単に言えば、覚せい剤をすればするほど、我慢が出来ない子供の性格になるんです。さらに幻覚や妄想などの症状も認めるようになり、犯罪に結びつくこともあるんです。

薬物依存症患者の最期:仁和医院

*1:むろん,上記エントリの筆者に濫用者との接点がなく,経験がないという趣旨ではありません。しかし,読者のほとんどは違法薬物の濫用者を直接知る機会はないでしょう。それらの方が上記エントリから受ける印象を,僕は危惧し,それを”牧歌的”と言うのです。

*2:リタリン覚せい剤に似た物質として問題視されています。昔には,ブロンという咳止め薬の中毒患者が発生しても問題になりました。

*3:オーバードーズ。過剰摂取。