080403それは問題点をぼかしているにすぎないのではないでしょうか。

見えない道場本舗:「靖国」上映館中止問題…権利や自由の欠如ではない、複数の権利と自由が重なると、かくなるのだ。
上記で引用するブログのように,「靖国」上映自粛問題について。稲田朋美議員を批判することは,逆に稲田氏の批判の自由を萎縮させる矛盾を孕むという批判があります。
しかし,これは問題点をぼかしているに過ぎないのではないでしょうか。

上の映画館の態度とも関係するのだが「無形の圧力」とか「意図するとしないとに関わらず圧力」と批判し、そういうこをとやるなと命じるのは、結局は法や実体の裏づけが無い以上、「遠慮しろ」という形で本来自由な、少なくとも「やってはいけない」と明記されていないことを制限するという点では、逆に自由や権利にとっての脅威となり得るんだよ。
というかね、週刊新潮記者でもいいや、一期限りは恐らく確実の(笑)稲田朋美議員でもいいや。「こんな事実を知った。批判(&調査・取材)したいんだけどな。でもやると街宣右翼が(彼らに対して)騒ぐからな。批判(調査・取材)は控えよう」こんな心の動きで自粛したら、右翼の影響を予想することによって行動を規制されるという点では、映画館の上映中止となんら変わらないではないか(爆笑)。


ブログの筆者は,稲田議員の自由と映画製作側の自由を等価値として比較しているようです。しかし,その中に致命的な見過ごしがあります。意図的にしているなら,わざと問題点をぼかしているのでしょう。

ひとつは,稲田朋美議員は権力を持つ側に立つことです。特に,国会での質問を通じて,個々の省庁に影響力を与えることが出来る立場にあるわけです。それを,上映前の段階であるにもかかわらず,当該映画に対する助成の適否についてアクションを起こすことは,萎縮的効果を与えることは明白です。たとえば,MSNの産経新聞では次のようにしています。

振興会は(1)政治的、宗教的宣伝意図がない(2)日本映画であること−を助成条件としているため、自民党若手議連「伝統と創造の会」(会長・稲田朋美衆院議員)が文化庁に助成の妥当性を問い合わせたところ、配給・宣伝会社「アルゴ・ピクチャーズ」は12日夜、都内で与野党議員向けの特別緊急試写会を開催。国会議員約40人が参加した。
政権与党の団体に文化庁が助成の妥当性を問われ,その結果,配給会社が試写会を催したのですから,文化庁と配給会社には相当のプレッシャーだったのでしょう。

つぎに,ここが一番の問題ですが,その「問い合わせ」が「上映前」だったことです。ある作品・表現が世に出る前に制限することについては,憲法で検閲を禁止しているように,強く戒められています。だからこそ,多くの社説で批判的な論調が目立ったのです。もし稲田議員が批判をしたければ,上映がされた後,自分でも自ら映画を観にいき,その上で批判をすべきだったのでしょう。稲田議員が批判することは,先にあげたブログの筆者の仰るとおり自由ですし,なんの問題もなかったのです。そのような批判も含めてするな,というのであれば,それはブログの筆者の言うとおり,まさに稲田議員の自由を封殺するものです。

おまけ。配給会社が上映前に試写会をおこなったのはなぜだったのでしょうか。批判をするつもりはないのですが,「上映された暁には,議員にも是非お越しいただきたい」などとして,かわせばよかったのでしょうに。考えられるのは,そこまで頭が回らなかったのか。それとも,かわしきれない圧力があったからなのでしょうか。どちらかだと思います。

<おまけ>
きまぐれな日々:稲田朋美らの「試写会要求」が映画上映中止を招いた
上映自粛問題についての読売新聞と産経新聞の欺瞞を暴いており,非常に興味深かったです。