080413生活保護受給者の通院交通費、大幅制限 厚労省が新基準

朝日新聞:生活保護受給者の通院交通費、大幅制限 厚労省が新基準  魚拓

生活保護受給者の通院の際に支給される交通費(通院移送費)について、厚生労働省は今年度から、支給条件を災害時の緊急搬送など特殊なケースに絞り、「例外的」に支給する場合でも通院先を福祉事務所管内に限るなど支給基準を改定した。北海道で交通費が不正受給された事件の再発防止策と位置づけ、移行期間が終わる6月末以降の本格運用を目指す。これに対して、支給を打ち切られる恐れのある患者と接する自治体担当者の間には戸惑いが広がっている。(asahi.com)より
北海道の事件の余波がこんなところに及んできました。まあ,そうなるだろうと思っていましたが,予想通りです。しかし,北海道の事件は上記私のエントリから見ても分かるとおり,イレギュラーな事件です。行政対象暴力または市長と請求者の癒着とでも理解すべきです。生活保護の通院移送費の不備として理解すべきものではありません。
したがって,
北海道で交通費が不正受給された事件の再発防止策と位置づけ
るのは間違いです。

生活保護受給者の通院交通費、大幅制限 厚労省が新基準(2)

上記記事の続きです。朝日新聞の記事も不適切な例を挙げているので,その点も後で指摘します。

これまで通院や入退院の際、医師の意見書などを条件に、通院移送費として「最低限度の移送」に必要な費用が支給されてきた。
しかし、厚労省社会・援護局長名の1日付の通知(引用者注,以下本文において本件通知とします)によると、「一般的」な支給は災害現場からの搬送など4ケースに限定。それ以外を「例外的」な支給と位置づけ、通院先は原則、市町村や地域ごとにある福祉事務所の「管内」とした。具体的には、身体障害などで電車やバスの利用が「著しく困難」な人のタクシー代や、へき地などに住んでいて「交通費の負担が高額」になる場合のみ、支給するようにした。これまで普通に支払われていた近距離交通費や、福祉事務所管外の医療機関に通うための交通費の支給が止まる恐れがある。(asachi.com)より
上記厚労省の通知の内容はまだ入手していませんが,おそらくこの内容でしょう(※PDFファイルです。厚生労働省保護課による社会・援護局関係主管課長会議資料(平成20年3月3日開催)。PDF上の8ページ目から10ページ目までです)。
厚労省は「基準の明確化」といいますが,「身体障害により困難」「へき地」など抽象的な表現があり,相当程度裁量の余地があるように読めます。したがって,現場の判断に追うところが大きくなりそうです。ただ,北海道の例を契機にしているという位置づけなので,現場には通院移送費減額のための大きなプレッシャーになるでしょう。まずは改正内容を移行期間の間に撤回させるべきですが,仮に改正内容が撤回されないとしても,通院していた受給者が通院できなくなるような運用をさせないことも重要です。

生活保護受給者の通院交通費、大幅制限 厚労省が新基準(3)〜朝日新聞の記事もどうかと

朝日新聞は以下の事例をあげて問題点の指摘としているようです。

生活保護で暮らす患者のなかにはすでに支給打ち切りを告げられた人もいる。・・・(略)・・・2年前、脳梗塞(のうこうそく)で手足にマヒが出て溶接工の仕事を解雇され、生活保護を受けるようになった。塀や電柱につかまりながら、ゆっくりでないと歩けない。月2回、ヘルパーに付き添われてタクシーで病院に通い、通院移送費約3千円を受け取っている。厚労省の新基準では、男性の場合、災害時の搬送など「一般的」な支給要件の4項目には該当しない。身体障害などで「電車・バス等の利用が著しく困難」で、例外的に支給されるかどうかが焦点となるが、CWは「一応歩ける」として、支給継続に難色を示しているという。男性は「10メートル先まで歩くのに何分もかかるのに……」と納得していない。・・・(略)(asahi.com)より
朝日新聞で引用されている上記事例の位置づけはどうかと思います。これは朝日によるミスリードではないでしょうか。少なくとも,厚生労働省保護課による社会・援護局関係主管課長会議資料内にある通院移送費の給付改正案には,
(2)上記の範囲で対応が困難な場合については、個別に内容を審査し、次に掲げる事項に該当するものとして真にやむを得ないと認められる場合には、給付を認めて差し支えないこととする。1 身体障害等により電車・バス等の利用が著しく困難と認められる場合であって、最寄りの医療機関まで通院等を行う場合・・・(後略)・・・
とあります。この事例を「1 身体障害等により電車・バス等の利用が著しく困難」に含まれるはずです。これは,当該CW及び福祉事務所の指導がおかしいと思われます。この例を,厚生労働省の本件通知のおかしな例とあげるのは間違いです。このような解釈がまかり通るのならば,それを是正すべきでしょう。その点を指摘しない朝日の記事のこの部分はおかしい解釈を蔓延させ,誤解を招くものだと思います。