080202 橋下氏VS岩国前市長、住民投票をめぐりバトル

読売新聞:橋下氏VS前岩国市長 住民投票巡りバトル
産経新聞:橋下氏「憲法をもっと勉強して」 岩国前市長を批判
朝日新聞:橋下氏に前岩国市長反論「大阪府民の声は聞かないのか」

先日大阪府知事選で見事当選を果たした橋下氏、早速なぜか岩国前市長とバトッています。

米空母艦載機の移駐問題を巡り、大阪府知事に就任する橋下徹氏(38)が山口県岩国市での住民投票を批判したことに対して、前岩国市長の井原勝介氏(57)は…(中略)…「橋下氏は府民の声を大事にすると言っていたのに、国策だとモノを言えないのか」などと反論した。橋下氏は「憲法を勉強してほしい」と譲らず、地方自治の在り方を巡ってバトルを繰り広げた。…中略…報道陣から反論を聞いた橋下氏は、憲法を根拠に「全部を住民投票でやるなら議院内閣制はいらない」と断じた。【読売新聞より】/橋下氏は1月31日、同市長選をめぐり「国政における防衛政策に関して、自治体が法律上の手続きを使って異議を挟むべきでない」と移転反対派を批判。容認派の候補の支援を表明していた。【産経新聞より】
まずは足元の大阪府をどうにかすべきであり、岩国市長選挙に首を突っ込んでいる余裕があるのかなあ、という疑問が先行します。

本題としては、一地方の住民達は、その地域固有の問題でかつ国政にも関わる問題について、法律上の手続きを使って異議を述べることは憲法上許されていないかどうか、ということです。橋下氏は、

憲法を根拠に「全部を住民投票でやるなら議院内閣制はいらない」と断じた。
のだそうです。また、別ソースでは(ただし、ソースもとは未確認)間接民主制を根拠にしていたそうです。

確かに、日本国憲法上の統治機構は、間接民主制を基本としています。国会議員は選挙を通じてのみその行動の責任を問われます。しかし、国会での個々の議員の行動は法的責任を問われません。いわば、政治責任ですね。このような形式を前提としている以上、基本的には日本国憲法は、直接的な民意の反映をそのシステムに組み込んでいないと言わざるを得ません。その限度では橋下氏は正しいことを言っています(ただ、議院内閣制はあまり関係ないかと思われます)。

しかし、他方で、日本国憲法は、憲法改正手続きに国民投票を要求し、また、地方自治に関しても一章を設けています。このうち、地方自治については、住民の意思をその自治体の政治に反映させることで、民意の反映の補完をする位置づけがあるということが一般的な憲法の理解です。また、地方自治体という、国とは別の統治機構をあえて定めるということは、権力を分立させ、制限するという位置づけがあるというのも一般的な理解だといっていいでしょう。このように、憲法は、一地方自治体が、独自の判断をして、その結果国政と矛盾することがあることを当然その仕組み上内包させているのです。

したがって、橋下氏がいうように、日本国憲法から直ちに”地方自治体が国政における防衛政策に口をはさむべきでない」とは言えないのです。解釈上様々な立場がありえましょうが、少なくとも、橋下氏が言うように簡単に断ずることができる問題ではありません。

なお、蛇足を承知で述べると、仮に橋下氏が大阪府知事としての職務を行う際に、国政と矛盾する立場を取らざるを得ない場合、どのようにして大阪府の立場を主張するのでしょうか。あえて自らの立場を縛るようなことを今の段階で言わなくても……、と、人事ながら心配になってしまいます。立候補前の”出馬は二万パーセントない”発言にせよ、どうも発言の軽さが目につきますが…大丈夫でしょうか。

【追記:080203 橋下氏、憲法学者から火だるま】
朝日新聞:橋下節に疑問の声「あんたこそ憲法学べ」 岩国住民投票
上記新聞記事から引用しますと、

 橋下氏の発言に対し、小林良彰・慶大教授(政治学)は「この種の住民投票には法的拘束力がない。…(略)…それを憲法が制限することはあり得ない…(略)…基地問題は地元住民にとって生活問題だから、意見を言う資格がある。それは憲法が認めた言論の自由だ」と述べ…小林節・慶大教授(憲法)は…(略)…「地域の問題について住民の声を直接聞いて、その結果を地方自治体の意向として国に示して実現を図っていい、というのが憲法の考え方だ」と言う。
日本国憲法のあり方についてのスタンスは小林節先生と私はまったく異なります。しかし、この点についてはまったく小林節先生の仰るとおりですね。さらに、いわゆる護憲派の泰斗であらせられる奥平先生も、
 奥平康弘・東大名誉教授(憲法)は「法的拘束力のない住民投票の是非について、わざわざ憲法を引き合いに出すこと自体が論外」と突き放した。「弁護士が『憲法』と言えば、いかにも説得力があるように聞こえるが、政治家として政治的な発言をしたまでのこと。人びとの注目を集め、目的は達成したんじゃないのかな」と冷ややかに語った。
と、政治学者や憲法学者から集中砲火のありさまです。特に、憲法学者はいわゆる改憲派小林節教授と、いわゆる護憲派の奥平名誉教授からも集中砲火を浴びているわけで、橋下氏の憲法の理解の程度が知れるというものです。ああ。

【追記2:080204 橋下氏、批判に】
西日本新聞:住民投票発言 橋下氏、批判に猛反発 福岡入り「憲法学者は机上論」

大阪府知事に就任する弁護士の橋下徹氏(38)が3日、子育てをテーマにしたフォーラムに出席するため福岡市入り。報道陣に対し、米空母艦載機移転が争点の山口県岩国市長選をめぐる自身の発言への批判について「机の上の憲法論しか知らない憲法学者に、とやかく言われたくない」と猛反発した。
では橋下氏の憲法論とはどのようなものであるのでしょうか?
…(中略)…橋下氏は3日、「住民の意思を無視しろと言っているのではない」と強調。市町村が実施する住民投票で国防の在り方が問われることについて「間接代表制というのは、住民のあらゆる意見をくみ取ったうえで、政治家が最適な施策を選択し政治を行っていくものだ」と、あらためて否定的な姿勢を示した。
だから間接民主制だけでは理由になりませんて。
地方自治の章についても言及しない限り、説得力を持ちませんてば。

議論で負けているのだから撤退すればいいのに…